肩車の思い出
幼い頃、何度も見た夢がある。
夜空の暗い漆黒の空に、風船が飲み込まれていくようにすぅっと音もなく飛んでいってしまう夢だ。
私が手を伸ばしても届くはずもなく、あっという間に風船は見えなくなった。
小さい頃、お祭りの夜店には、ウサギの形をした風船がよく売られていた。そして、風船にはひもがついていて、その先に、飛んでいかないように鉄の輪っかの様な物が結ばれていた。私が2,3歳の頃に買ってもらった風船には、その鉄の輪がついていなくて、せっかく買ってもらった風船のひもを私は何かの拍子で離してしまった。よく見ていた夢は本当にあった夢で、あっと思っても風船は留まることなく空へと消えていった。どうしてひもを離してしまったのだろう。もう、今度風船を買ってもらったら、絶対に手を離さないと心に誓ったものだ。
話は変わるが、亡き父が亡くなる少し前に、私に、
「おまえが小さい頃、あちこち連れて行った事、もう覚えてないやろなあ。あちこち行ったんやけどなあ。」
と言われて、「うん。覚えてない」と答えた事があった。
私は三人兄弟(妹と弟)のいちばん上で、いつも「おねえちゃんだから」と言われていたし、誰かを抱っこした事を覚えていても、自分が抱っこされたという記憶は無いに等しいかもしれなかった。残っている写真から、両親に愛されていたことは感じることはできた。また、自分が子供を持った時の事を考えると、子供を連れてあちこち行ったから、きっと私の両親も同じようにしていたに違いない。ただ、私が小さすぎて覚えていないだけなんだろうなと父に言われて思った。
そして、今の私が風船の夢の事を考えるとき、いつも風船の事ばかりを思っていたけれど、その記憶の中で私は誰かに肩車をしてもらっていた。肩車してもらっていた私が空に手を伸ばしているのだ。それは、きっと若き日の父なのだ。そんな事さえも幼い私は忘れてしまっていた。そして、「あー!手を離してしまったの?」という誰かの声も思い出す。それは、若き日の母だと思う。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません